あまい日



昼休み、忍足はいつものようにサロンへと向かう。

ひとりゆっくりと過ごせる場所の一つでもある。

向かう途中、中庭で跡部を見かける。

声をかけようとしたが、電話中らしい。

邪魔しては、と思い、忍足はそのまま素通りしようとした。

「忍足」

すれ違う瞬間、電話が終ったらしく、跡部は声をかけてきた。

「当分忙しくてな。しばらく会えない。悪いな」

そういって、その場を去っていった。

いきなりそう言われた忍足はすぐには理解できなかった。


それからしばらくは学校や部活では会うものの、プライベートでは会えなかった。

会えば軽くキスくらいしていくのだが、キスだけで体が思いっきり反応してしまう。

「跡部のやつ…中途半端やないか…。これどないすんや…」

仕方なく、自分で自己処理をするというのが最近日課になり、

それ以上に跡部に抱きしめてもらいたいという欲求が大きくなってきた。

「明日誕生日やから、思いっきり跡部に甘えたろか…」

忍足はふと、そんなことを思いつつも明日も跡部は忙しいのだろうかと考えてしまう自分がいた。


そして、次の日。

「忍足」

部活が終わり、跡部が忍足に話しかけてきた。

「これから俺と付き合え」

いつもの口調で跡部はそんなことを言った。

忍足自身、跡部と過ごす誕生日を思い描いていたので断る理由もない。

しかし、いきなりこの台詞か。と思いつつ、忍足は跡部に着いていった。

車で移動中、いきなり森の中へと走行する。

「跡部?どこ行く気や?」

跡部の指図なのは確かだが、これは大丈夫なのだろうか、

忍足は跡部の顔と窓の外を交互に見つめる。

「大丈夫だ、ここは跡部家の敷地内だ」

そんな忍足を他所に跡部はサラリといいのける。

さすが…としかいいようがない忍足だった。

車はキャンプ場とかにあるロッジの前に止まると跡部は運転手に帰るように促す。

「なぁ、跡部…このロッジって」

よく見るとロッジにしか見えないものが少し変な感じがする。

直感的に何かが違う気がした。

「気がついたか。これはお菓子の家だ」

跡部は忍足の顔を見て、どうだ?といわんばかりに忍足を中へ案内した。

床以外はどうやらお菓子で出来ているらしい。

設置してある椅子やテーブル、ベッドなどは本物だが。

「忍足、誕生日おめでとう。お菓子の家に憧れてただろ?」

「確かにいいなぁ〜とはいったやけど…まさか本気でやるとは思わんかった…」

嬉しいはうれしかったが、驚きの方が勝っていたのでいまだに実感がわかない。

「とりあえず、適当に食べてみろ」

そういわれ、壁を食べてみるとほんのり甘いビスケットだった。

「忍足」

跡部は壁、窓を食べ始める忍足に声をかけた。

跡部は忍足に小さな箱を差し出す。

「開けていい?」

「ああ」

忍足はその箱を開けるとプラチナリングがあった。

指輪の裏側には【景吾&侑士】と今日の日付が刻印されていた。

「俺の今の気持ち全てだ。受け取ってくれるな?」

「…跡部…ありがと…」

忍足は感動して涙が流れた。

「それと、悪かったな。サプライズとは言え、お前に寂しい思いをさせた」

跡部はそういうと忍足を引き寄せ、軽くキスをした。

「跡部…好きや…もっと…強う抱きしめてや…」

忍足は跡部の背中に手を回し、離さないように力いっぱい抱きしめた。

跡部もまた、同じように強く抱きしめ、今度は長く濃厚なキスをした。





次の日。

二人そろって同じ車で登校してきたのを全生徒が注目していた。



おわり